ぺんぎん村での日々

イラスト・写真・ゲームを中心とした日々

お金と甲子園『砂の栄冠』を読んだ感想

『砂の栄冠』(三田紀房)を読みました。
なかなか面白かった。

f:id:drawdraw:20180825144546j:plain

「もし高校球児が1000万円をもらったら?」という設定のもと、
甲子園を目指す高校球児の話。

 

今年2018年の夏の甲子園で旋風を巻き起こした金足農業
金足農業は秋田の公立高校であり、
『砂の栄冠』の主人公七嶋の高校も公立高校。

 

お金と甲子園との関係に注目しながら
甲子園で繰り広げられる戦いの裏側、
甲子園の魔物の正体
なぜ公立高校が甲子園で旋風を巻き起こすのか、など
三田さん独自の視点で高校野球を描き出す作品。

 

以下に感想・評価・レビューをまとめます。

 

 

 


お金と甲子園のテーマはどのように決定されたのか

 

「針の穴」理論
「空席になっているか」
「要素の掛け合わせ」


に基づいている。

 

「針の穴」理論とは、
テーマを大きく広げるのではなく、
針の穴を通すような小さなテーマを絞り込んで
企画することである。


「もし高校球児が1000万円をもらったら?」
という設定にすることで、
その高校球児が1000万円を使ってどのような行動を取るのか、
周りの反応がどうなるのか、
など他のマンガにはないものを
具体的に描き出すことができる。


つまり、テーマをあえて小さく絞り込むことによって、
独自性を出すことができる。

 

「空席になっているか」
高校球児が甲子園を目指すマンガは世の中にあふれている。
自分のマンガが他のマンガよりも目立つためには、
誰もやっていないジャンルであることが重要である。

 

「要素の組み合わせ」
最大限、離れている2つのモノを組み合わせる。
2つのギャップが大きければ大きいほど、
意外性が生まれ、強烈な個性が生まれる。
ギャップの大きな2つのモノをうまく結びつけられる能力が素晴らしい。

 

これら3つのことがうまくかみ合い、
読者が引き込まれるような
テーマ設定が可能になった。

f:id:drawdraw:20180825144818j:plain

 

ちなみに、『砂の栄冠』の設定は、スポーツ新聞述べた記事から着想を得たそうだ。

それは、2007年の夏の甲子園で優勝した佐賀北高校についての記事だった。
毎日毎日、野球部の練習を見に来ては
「今年のチームは甲子園なんていけない。もし本当に甲子園に出られたら100万円やる」とヤジを飛ばすおじさんがいる。その言葉に奮起して練習し、甲子園出場を果たしたという内容だった。甲子園出場が決まってからおじさんはばったり来なくなったそうで、記事ではチームから「お金はいらないから応援に来て」と呼び掛けていた(笑)。それを読んで以来、いい話だからどこかで使いたいなと思っていて、『砂の栄冠』でかたちにすることができた。

徹夜しないで人の2倍仕事をする技術 三田紀房流マンガ論より

 

 

イデアを考えようと努力するのではなく、
見たこと、聞いたことを、
ぱっと捕まえる姿勢が
面白いテーマを見つけることにつながったといえる。

 

 

主人公、七嶋は何がスゴイか

 

バッティングもピッチングも一流。
さらに左右どちらでも投げられるといった能力を持つが、
七嶋がスゴイのは、そこだけではない。


大きく分けて、本番力と本気力である。

 

本番力とは、ここ一番でしっかりと自分の力を発揮する能力である。
間違えてはならないのは、ここ一番は何も甲子園の舞台のことではない。
ここ一番とは、目の前の問題のことである。
目の前の一球、一勝、一打席に集中して取り組む。
自分がコントロールできることに集中すること。
その結果が、甲子園での舞台での活躍につながっている。
自分の日々の行動がどのように甲子園につながっていくか、
理解している七嶋の頭の良さに凄みを感じる。


本気力とは、目的のためならどんなこともやり遂げる能力である。

f:id:drawdraw:20180825144623j:plain

本気力を語る七嶋の言葉がある。

 

僕たちは日頃しょっちゅう
優勝する甲子園へ行くと言っていました
口にしていれば
僕は本気で甲子園を目指していると
思っていました
でもそれは…
ただ言っているだけ
ただ思っているだけ
そんなものは本気でも何でもない…

本当の本気とはこういうことだ…
それを今…トクさんから教えられました
本当の本気とは…
目的のためなら
何のためらいもなく
自分を捨てること
自分の身を切って削ること!
これが真の本気というもの!

 

目的のためならどんなこともやり遂げる姿がスゴイ。
純粋無垢な高校球児を演じるだけでなく、
左投げで登板できるレベルになるなど、
不可能なことに挑戦してそれを可能にしている。

 

 

ガーソとは何だったのか

f:id:drawdraw:20180825144656j:plain

本当の敵は、
有能な敵ではなく、
無能な味方。

 

ガーソは、主人公七嶋の野球部の監督である。
これでもか、というくらい無能な監督である。

 


なぜ無能といえるか
一言でいうと、
自分のことしか考えないやつだからである
チームが勝つことなど考えない。
自分のことが最優先なのである。

 

例えば、プライドだけは高く
実力が伴っていないのに、強豪校の監督に対抗意識を持つ。
その結果、本来は必要のないところで
選手交代をしてしまい、
ピンチを招いてしまう。

 

また、試合の流れや展開、これから先の戦略や戦術など全く考えない。
エースである七嶋の負担を考えず、
常にベストメンバーで臨んでしまう。
常にベストメンバーというのは一見良さそうなのだが、
勝ち進むためには、常にベストメンバーである必要が本当にあるのか、
全く考えず、思考停止でベストメンバーにしているのである。
負けたときに
「うちはベストメンバーでやりました。負けたのは仕方ない」
と言い逃れ場できるように。
つまり、負けたときの言い訳を作っているのである。

 

他にも、いかに自分が有能であるかをアピールしたがり、
試合後の監督インタビューに命を懸けていること。
監督という立場にありながら、
リスクをとらない、
責任をとらない。
試合の肝心なところで
全く指示を出さない、
全く役に立たない、などなど。

 

七嶋は数々の強敵と対戦するが、
ガーソは、一応味方であるが故、
七嶋にとって最悪最強の敵といえる存在である。

 


甲子園は筋書きのないドラマ、ではない

 

「甲子園の魔物」の正体とは何か
「甲子園には魔物が住み着いている」
勝利の女神がほほ笑む」
という表現があるが、
これは、観客が大きな影響を与えている。

 

甲子園の観客はどちらかのファンという人ばかりではなく、
甲子園での試合そのものを楽しもうとしている人たち、
甲子園で繰り広げられるドラマを見たいと願っている人たちなのである。
目の前で勝負が繰り広げられていれば、どちらかに肩入れしたくなる。
立場の弱いチームが奮闘している姿や全力プレーで頑張っている姿に、
心を打たれ、応援するのである。

 

ラクルを見たいと望む観客が、
奮闘するチームを応援し、球場全体をそのチームのホームにしてしまう。
その結果、ミラクルが出やすい環境を生み出す。
これが、甲子園特有の勢い、
「宇宙空間」をつくるのである。

f:id:drawdraw:20180825144726j:plain

 

勢いがあるチームとは、
観客を味方につけ、
甲子園を「ホーム」にしているのである。
たとえば、2007年夏の佐賀北高校や、
2018年の夏の金足農業は、
どちらも公立高校ということもあり、
甲子園を「ホーム」にすることができたといえる。

 


なぜタイトルは「砂の栄冠」なのか

 

樫野高校オリジナルの応援歌を作成した際に、
この曲のタイトルを決めることになって、
七嶋がそのタイトルとして「砂の栄冠」を提案した。

 


砂が象徴するのは、トクさんとの約束。
1000万円を七嶋に託したトクさんに対して、
「本気のトクさんに本気で応えて甲子園へ行く」
という七嶋の誓い。

 

栄冠
全国高等学校野球大会の歌の歌詞から
「ああ 栄冠は君に輝く
という歌詞から
栄冠とは、
輝かしい勝利のしるしとして与えられる名誉のかんむり。
最後に手にした甲子園の土である。

 

トクさんから預かった1000万円は
最後には甲子園の土となり、戻ってくる。
「本気のトクさんに本気で応えて甲子園へ行く」
という最初の七嶋の誓いを達成して物語は終わる。

 

以上、「砂の栄冠」の感想でした。

砂の栄冠 甲子園研究所

砂の栄冠 甲子園研究所

 

おすすめの記事

今年の目標を立てた人へ ―「早すぎる最適化」を避けよう― - ぺんぎん村での日々

【画像大量】東大の建物が『ICO』の霧の城っぽくて雰囲気よい - ぺんぎん村での日々

【AI×イラスト】スプラトゥーンのイカを葛飾北斎が描いたら? deepart.ioで遊んでみた - ぺんぎん村での日々

【AI×イラスト】『ゼルダの伝説 BotW』の風景をゴッホが描いたら スマホアプリ「deeparteffects」で遊んでみた - ぺんぎん村での日々

 


スポンサードリンク